【第45回NYMBAの会】 『知らないと損する米国税制の知識~米国税制改正、知的財産、移転価格の観点から~』

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10/18(木)に『知らないと損する米国税制の知識~米国税制改正、知的財産、移転価格の観点から~』と題し、ジンウック・キムさんをお迎えして月次定例会を開催し、総勢37名(内MBAホルダー5名)の方々に参加いただきました。

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会は米国税制改正の発端となった、BEPS (Base Erosion and Profit Shifting、税源が浸食されて利益が移転するという意味)と呼ばれる概念の説明からスタートしました。BEPSとは、法人税率の低い国に課税所得を移転させることで法人税の支払いを減らす行為であり、各国の税制の違いを利用する多国籍企業のこのような行為に対応するため、G20諸国の要請に応じて、OECD が15項目のBEPS 行動計画を策定しました。そのうちのひとつに「Country-by-country report(国別報告書)の作成」があり、一定条件の下で当局同士での納税者の情報交換を可能にしています。

 

米国税制は1986年に改正されたままの古い法律で、2017年現在、連邦政府の歳入のうち、法人税が8.9%(1952年時点では33%)と非常に小さくなっており、その背景に上記BEPSによる 米国外への所得移転があることから、改正が行われました。
今回のトランプによる税制改正は法人税率を35%から21%に下げた点だけみると有り難いものに思いがちですが、 アメとムチの政策として、同時に新たなムチなる税が設定されており、覚え方と共に分かりやすくご教示いただきました。

例えば、GILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)という米国企業の無形資産所得を海外で過剰に計上している場合に“guilty(有罪)”として課税する制度、BEAT(Base Erosion Anti-Abuse Tax)という国外関連企業が無形資産を実態に伴わず保有し、米国ですべき支払いが低い会社を“beatする(叩く)”制度があります。
また、その他アメなる政策としては、FDII(Foreign Derived Intangible Income)という、輸出を行う企業の優遇措置として、無形資産を米国に所有する法人の課税所得に13.125%の軽減税率を適用する制度もあります。

 

次に移転価格税制の説明に移り、国外関連者間(例えば親会社と子会社との間)で取引をする場合、その価格はArm’s Length Standard(日本語では独立企業原則)に基づかなければならず、それに基づいているかを検証する手法の一つとして、非関連者間取引で用いられた類似性を有する比較可能な価格と比較する手法(Comparable uncontrolled price method、CUP法)が紹介されました。

また、特許、ブランド、商標といった知的財産を国外に移転し、使用料を支払うことは各国の課税所得に影響を与えることから、IRS(Internal Revenue Service、内国歳入庁)はDEMPE(Development, Enhancement, Maintenance, Protection, Exploitation)という基準を用いて、誰がどこで開発・維持したか等の観点から知的財産の帰属を判断します。例えば、従業員が一人もいないケイマン諸島の法人が知的財産を保有し、米国の関連会社から特許使用料が払われている場合は、同基準に従ってBEPSが疑われることとなります。金融取引での移転価格についても言及があり、海外子会社への貸付け、保証の提供、ファクタリングにおいても、Arm’s Length Standardによる価格の設定が必要になるそうです。

このような移転価格税制による追徴課税のリスクを避けるためにはどうしたらよいか、という問いに対し、自動車保険を比喩に用いながら3つの解決策が提示されました。
1つ目は、移転価格設定のプロセスや根拠を一切文書化しないこと。これは、保険に入らずに自動車を運転するようなもので、追徴課税を自分で全て支払うことになります。
2つ目は 、BEPS行動計画に準拠した、移転価格設定のプロセスや根拠を文書化すること 。これは、免責金額(自己負担金額)のある保険に入るようなもので、事故の際には保険金が下りるため、相当程度の追徴課税のリスク回避が見込めます。
3つ目は、税務当局と契約を事前に結ぶAdvanced Pricing Agreement(日本語で事前確認制度)。これは免責金額ゼロの保険に入るようなもので、例えば日米当局の合意内容に基づく事業活動で追徴課税を受けることはありません。ただし、当局と話し合う際にジンウックさんのような専門家を雇うコストがかかります。

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最後に、移転価格の事例を2つ紹介していただきました。Amazon がルクセンブルクの子会社にプラットフォームの耐用年数を15年として価値を算定して使用権を与えたのに対し、IRSはプラットフォームは永遠に使えるものとして算定すべきだと主張し、より高い金額で価値を算定した事例。また、Caterpillarが米国で開発した技術から生じた課税所得をスイスの子会社で利益を計上していたことに対して、IRSが実態が伴なわないとして追徴課税すべきだと主張した事例、を説明していただきました。

今回は税制という馴染みのない分野で、かつ初の英語での開催であったにも関わらず、ジンウック氏は豊富な例えとわかりやすい説明に加え、時折挟むジョークで終始和やかな雰囲気を保ちながら聴衆を導いてくれました。

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次回は11月15日(木)午後7時から、大手エネルギーコンサル会社勤務・NYUで教鞭と執っていらっしゃるエネルギー専門家である片山さんに、『北米・世界エネルギー動向~毎月払う電気料金の中身~(仮題)』についてお話を伺います。

事務局・佐野 和秀
写真 Shintaro Ueyama